2009.03.13 Friday
山田 裕之
ジレンマ[dilemma]相反する二つの事の板挟みになって、どちらとも決めかねる状態。
抜きさしならない羽目。進退両難。(広辞苑より抜粋)
彼は今、猛烈に悩んでいました。
ヒトとしてのマナーと己の欲望との狭間で揺れていました。
ここは3人打ちのフリー雀荘。
馴染みの店となった理由は、ルールとレートと店のメンバーの弱さ。
時間を潰すにはもってこいです。
なのに…!なのに…!!
今、同卓しているのは、フリー麻雀が初めてという学生っぽい若い男2人。
2人は友人同士なのでしょう。よく喋ります。
彼にも若いころはありました。
麻雀が初心者だった頃ももちろんあります。
しかし、ここまで謙虚さを失った生き物であったかと…彼は自分に問い続けていました。
初めてならではの緊張感に呑まれる細長い男。
緊張感を隠すためなのか…よく口の動く横柄な茶髪の男。
どちらも麻雀的には下の下!
牌さばきはおろか、ルールさえも危ういこの若者たちに
開局と同時に「チー!」と発声してきたこの若者たちに
いつまでたってもサイコロを振らないこのワカモノタチニ…
なぜ…彼は…ボコボコにされているのか…
麻雀なんてのは半分は運のゲーム。
そこに彼は惚れていました。
麻雀というゲームの、確率と運のバランスが生みだすハーモニーを彼は楽しんでいたのです。
そんな彼だからこそ、このような状況も受け入れることができたのですが…、
彼は考え続けていました。
『オレにだって初心者の頃はあった。
慣れていないのはわかる。
たくさんの失敗もしてきた。
かつての同卓者にかけた迷惑なんて、今のオレが受けているものの比にはならない。
ただ…、頼むからゴメンなさいと一言オレに声を掛けてくれ…。
だからといって、それをメンバーから伝えてもらうのも難しいしな。
フリーのマナー的なものを伝えるのは、ここのメンバーならしてくれる。
ところが、それが人間的な礼儀となるとまた別だ。
そんなこと雀荘のメンバーがお客様に対してしゃしゃりでるのもおこがましい。
てか、礼儀なんて親に教えてもらえ。
もうなんか、こいつらの親にムカついてきた。
新規様を大切にしたい店の気持ちは痛いくらいわかる。
せっかく若い男たちが雀荘に実際に足を運ぶという勇気を振り絞ってくれたのだから
この店で麻雀を覚えて、
この店でフリーのマナーを身につけて、
この店で楽しんでもらいたいに決まってる。
オレはこの店が嫌いじゃない。むしろ好きだ。
なんなら、オレが色々とこの2人に教えてやりたいくらいだ。
親の教えなかった礼儀とか、特に。
でも、言うこと聞かなさそーだなぁ…。
特にこの茶髪の方。
やっかいそうだなぁ…。
坊主にしたらえなりかずきに似てるのになー。
てか、えなりかずきとスヌーピーって似てるよな…』
彼の妄想が完全に脱線したとき、
細長い方の男が「カン!!」と、
茶髪えなりの捨て牌の「東」を指さして発声しました。
細長い男は、すでに「九萬」をポンしていました。
彼は心配になりました。
3人打ちのこのルール。
完全サキヅケだったからです。
『「東」の暗刻があるから、「九萬」をポンしたとして…「東」のみが役だったとしたら…
大明カンをすることによって、役がなくなっちゃうじゃないか。トイトイもなさそうだし…』
彼は決意をしました!
こいつらにはオレが麻雀と礼儀を叩き込んでやる、と。
特に細長い方の男…!
次の瞬間、彼は
「それ役なくならない?
「東」の暗刻以外に役なかったら、アトヅケになっちゃってあがれなくなるよ?」
と、仏陀の説法のようなありがたい言葉を口にしていたのです。
「あ、ホントっす!ありがとうございます!」
と、細い方。
「すごいっすね!牌透けて見えてるんじゃないっすか?ワラ」
とは茶髪えなりの弁。
『言ってよかった。。
この子たちは素直で可愛い子だ…!
よし、お前らは今日からオレの生徒だ。
オレのコトは泣き虫先生と呼んでくれ!!』
気分をよくした彼は
「透けて見えてるかもよ…笑」
といった、結構な寒さの冗談を交えながら…
打5。
「ロン!」
「ダブ東ドラドラっす」
と、細い方。
「全然、牌透けてないっすね。ワロタ」
とは茶髪えなりの弁。
この時、
ほんの先ほどまで仏陀のような説法をしていた男の顔は
般若。
般若はホントに泣きたいのを堪えながら、次局。
九萬単騎待ちでリーチをかけ、
代走を頼み、
メンバーに向かって一言、
「待ち、よく見て。」
と力なく、しかし精一杯の三味線という名の最後っ屁を、
麻雀1年生の2人に放って
トイレでホントに泣いてしまっていました。
- | comments (2) | trackbacks (0)





コメント
とーぜんのように2人には通用しません。
コメントする